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経営が立ち行かなくなった会社(法人)を放置しても、債務は免除されません。
督促が続いて差押えリスクにもさらされ、取引先・従業員等の関係者には「不誠実だ」との印象を受け付けるだけです。
破産申立てに踏み切れない時は、何もしない時間が長引くにつれ下記のリスクが生じると心得ましょう。
会社(法人)破産・法人破産はネガティブなイメージがつきものですが、早期決断から結果的に最善の結果に繋がる場合が大半です。
破産のメリットと決断をためらわなくても良い理由は、本記事で整理しています。
経営難に陥った会社を破産させずに放置したところで、自然と債務が免除され、会社の解散に至るということはありません。
債務があれば督促が続き、一括請求から保証債務の履行へ、そして裁判手続を利用した競売・差押えへと移ります。
こうした債権回収の手続きが続けば、経営者個人・家族・連帯保証人といった関係者の生活に悪影響が出ます。
悪影響を取り除きたいのなら、もう一度会社に戻って破産手続きを進める他ありません。
前提として、一部の特殊法人を除き「維持できなくなった会社は破産させるべき」とする法律はありません。
返済不能・債務超過等があっても、破産申立をするかどうかは原則として債務者を含む申立権者の任意です。
企業活動を長期間行わない場合、届け出ることで休眠会社(会社法第472条1項)とすることが出来ます。
ただし、休眠会社化によって負債の免除や肥大化を防げるわけではありません。
休眠会社は、最後の登記から12年経過するとみなし解散(職権解散)となりますが、それだけだと会社は消滅しません。
企業活動を再開できなくなるだけで、財産の換価処分後に債権者に分配する等して清算結了となるまでは、負債も会社も存続します。
後になって「やっぱり会社を立て直そう」と考え直しても、経営状況の改善は望めません。
競売・差押えが進んで事業継続に必要不可欠な財産がなくなる、未払い賃金や金利・遅延損害金等がかさむ等して、ますます厳しい状況に追い込まれるからです。
会社の借金から逃げ切るには、2020年以降に生じた債権は、その債権の性質によって、債権者が権利行使できる時から5年あるいは10年経過し、消滅時効が完成するのを待たなくてはなりません(民法第166条)。
実際には、滞納から数年と経たずに請求・差押え・債務の承認等(時効の更新または完成猶予の事由)が発生し、実際に返済義務がなくなるケースは稀です。
融資で資金調達した時に保証人を付けていた場合、放置された会社の代わりに保証人が返済義務を負います。
債権者から返済するよう求められ、これに応じられないようなら、和解交渉や法的手続で債務の圧縮・免除を図るしかありません。
事業融資について保証債務の履行を求められた場合、たいていは保証人も自己破産を強いられます。
保証人の地位が事実上会社と同等となっている(=連帯保証契約)場合がほとんどで、会社が債務不履行に陥るとただちに保証人が一括返済を迫られることになるからです。
破産させず放置しようとする会社に保証人がいないからと言って、誰も債務超過・債務不履行の責任を負うことがないとは限りません。
債務とは別筋で「経営者がその任務を怠った」とし、会社に対し損害賠償責任を負う可能性が考えられます(会社法第423条1項)。
投げやりになって無理な経営判断をする、会社の資産を持ち出す等の行為は、本来あってはなりません。
経営続投を断念して逃げてしまった代表者は、督促から逃げ回る生活を強いられます。
会社に残してきた財産は失い、さらに居所を隠すため最低限度の生活すら制限されるでしょう。
代表者個人にとってまず心配なのは、債権回収手続きによって金銭的に追い詰められてしまうことです。
「代表者だから」という理由で会社の債務を履行する義務はありませんが、ケース別に次のように回収が進んでしまいます。
会社を破産させず放置した代表者個人については、金銭面以外での影響も心配です。
仕方ないこととは言え、個人の暮らしの平穏が乱され、それが間接的に経済苦を招いてしまう可能性があります。
会社破産すべきなのに手続きに踏み切れない理由は主に3つあり、破産費用や関係者への影響を心配して決断できないケースが最も多く見られます。
以下3つのうちいずれの理由でも、破産の影響と手続きについて正しい理解があれば、迅速に決断できるはずです。
会社破産にあたって一定の費用が必要です。
管轄裁判所によりますが、裁判所に納める費用(予納金)と弁護士報酬で最低でも70万円以上となるのが目安であり、多くの場合に100万円以上かかります。
破産費用は会社の資産もしくは個人のポケットマネーから原則一括で捻出するしかなく、キャッシュが払底している状態では厳しいと言わざるを得ません。
最も多いのは、取引先・株主・従業員等の関係者への影響を心配し、破産申立をぎりぎりまで延ばしてしまうケースです。
実のところ、会社を畳むのか再生を図るのか不明瞭な状態にしておくことこそ、関係者に不安・不信感を抱かせる要因の最たるものです。
どんな形でも再スタートを支援してくれる関係性が、いったん逃げてしまうことで不可逆的に壊れてしまった……となっては、元も子もありません。
会社を破産させずに逃げてしまうのは、破産申立てや関係者の立場に関する誤解・知識不足によるものです。
会社を放置する主な理由として挙げたものは、次のように解決可能です。
破産費用が高額化する問題は、管轄裁判所の判断で柔軟な対応が取られています。
実際には、管財事件でも一定条件を満たしているとして、費用低額化や分割払い等に応じてもらえるケースが大半です。
仮に複数いる役員の一部につき同意がとれなくても、それぞれ単独で破産手続できます。
取締役・理事個人につき、債務者に準ずる者として、法人「準自己破産」の申立てが認められているのです(破産法19条1項・2項)。
会社と深く関わりのある関係者にはそれぞれの思惑があるものの、客観的に考えると、早期の破産はむしろ「誠意ある行動」です。
各々の立場が安定し、手続きが明確になるためです。
取引先は債権者集会に参加できます。
納品前や買掛金決済前の取引先については、破産手続中、債権者集会に参加して説明・分配の機会が得られます。申立てを決断する時期が早ければ、そのぶん換価処分の対象となる財産の目減りが抑制され、結果的により多くの配当が期待できます。
また、破産する会社とのやりとりでは当該法人の代理人弁護士を通すため、対応や連絡先が明確で安心してもらえます。
破産した会社の株主は出資額を失うだけで、出資額を超えて債務の履行に応じる義務を負うことはありません(会社法104条)。早めに破産を決意した方が無駄な期待を抱かせずに済み、今後の信頼関係維持に繋がります。
会社に残っている従業員については、破産申立てさえすれば、速やかに雇用保険や未払賃金立替払制度を利用できるようになります。
賃金の未払い分は制度により8割まで一時的に立て替えられ、退職後の収入は「特定受給資格者」として失業給付でまかなえます。
結果、企業活動を続けられなくなった後の労使の面倒なやりとりを回避できます。
会社破産にはネガティブなイメージがつきものですが、債務超過等で再生の見込みが立たない状態なら、むしろ「前向きな選択」と言えます。
督促されたり資金繰りを考えたりすることによるストレスを長引かせず、実生活の制限も回避して平穏な日常を取り戻すためのただひとつの手段です。
弁護士を通して会社破産に着手する場合、その時点から債権者の督促が来なくなります。
その後も免責を得るまで弁護士が窓口になり、直接連絡が来ることはありません。経営者の生活に平穏が戻り、廃業や新しい事業計画等に集中できるようになります。
会社破産の最大のメリットは、最終的に返済義務がなくなる点です。
会社名義の資産をすべて換価処分、分配する必要はありますが、債務がなお残っても会社が消滅することによって、債務も消滅します。
連帯保証人である個人についても、免責許可(=債務の免除)が一度下りれば、以降督促されることはありません。
取引先や従業員にとって最もストレスを感じるのは「債権回収の見込みが立たず、連絡しても状況や見通しについて回答が得られない」という状態です。
早めに破産に踏み切れば、それぞれにとって立場や必要な手続きが明確化し、
会社を放置した時の負担を回避できます。
債務履行の見通しが立たなくなった会社は、遅かれ早かれ破産手続に進みます。
投げやりになって放置するのは、かえって逆効果です。
長期間に渡って私生活でストレスを抱え、不安定な立場のまま放置された関係者から「不誠実」と見られるだけで、いい方向には決して進みません。
破産を決断する時の問題は、社長としての心理も相まって判断が遅れがちになることです。
迷う場合は、法律上の要件や手続全体を知る専門家に相談し、助言をもらうようにしましょう。