会社の破産手続には裁判所への申立が必要になり、そのためにはさまざまな書類を準備する必要があります。
そのため、破産手続を弁護士へ依頼することが一般的です。
しかし、弁護士へ依頼すれば費用が発生します。
少しでも費用を抑えるために、自分で破産手続できないかと考えている方もいるかもしれません。
会社(法人)の破産手続は経営者自らが行うことは可能なのでしょうか?
ここでは、会社の破産手続を弁護士へ依頼せずに経営者が自分で行えるかということについて解説します。
破産手続というと裁判所への申立が必要になるため、弁護士へ依頼するというイメージが強いかもしれません。
しかし、弁護士へ依頼せずに経営者が自分で申立することは可能なのでしょうか?
破産手続は弁護士を通して申立なければならないという決まりはありません。
弁護士資格など特別な資格がなくても申立することはできるため、経営者自らが申立てすることも可能です。
経営者自らが会社の破産手続を申立する場合、申請に必要な書類の準備だけではなく、債権者集会や従業員への対応など全てを自分で行う必要があります。
裁判所手続きの申立権者とは、申立てする権利のある人を指します。
会社(法人)破産手続の申立権者は、債務者もしくは準債務者が該当します。
個人の破産手続であれば、債務者自身が申立権者として破産手続を申し立てます。
しかし、会社(法人)破産の場合は、法人自身が破産手続開始を申し立てる「自己破産申立」と、取締りや理事などの個人が準債務者として破産手続を申し立てる「準自己破産申立」に分けられます。
どちらも同じ破産手続ではありますが、法人が申立てる場合と個人が申立てる場合とで呼び方が変わります。
会社の理事や取締役などの経営陣は債務者に準ずる者になるため「準債務者」であり、その会社の意思決定をする立場にあるという考えから申立が認められています。
どのような場合に取締役などが破産申立をするかというと、破産申立をすべき場合であるのに、代表取締役が破産申立をしてくれないような場合です。
会社の破産手続を経営者が個人で申立てるは可能ですが、会社の破産手続によって自分自身も破産者になってしまうのではないかと不安に思う方もいるでしょう。
会社の破産手続は法人格であり、経営者個人とは別物として扱われます。
そのため、経営者が自分で会社の破産手続を申立てたからといって、経営者自身も破産者になってしまうわけではありません。
ただし、経営者が会社の債権の連帯保証人になっている場合は、会社の破産によって経営者が返済義務を負うことになります。
会社の破産手続を弁護士に依頼せずに自分でする場合、メリットとデメリットがそれぞれあります。
メリットとデメリットを知り、自分で手続きを進めるべきかどうか検討しましょう。
会社の破産手続を経営者が自分ですることのメリットは、弁護士費用を抑えられるという点です。
弁護士費用は一律ではなく、会社ごとに金額や内訳は異なります。
おおよその費用として、会社の破産手続の場合は50~150万円が相場と考えられます。
債権者の数や負債額が高額になるほど弁護士費用も高額になる傾向にあります。
破産手続では申立手数料や予納金なども発生するため、少しでも費用を抑えたいと考える場合には弁護士費用を抑えられることは大きなメリットと考えられるでしょう。
弁護士へ依頼せずに経営者が自分で会社の破産手続を行う場合、メリットよりもデメリットになることが多いです。
自分で会社の破産手続をするデメリットについてご紹介します。
会社の破産手続は経営者自身が自分で裁判所へ申立てることが可能です。
しかし、裁判所へ会社破産を申し立ては手間がかかる複雑な作業だといえます。
個人の破産手続とは異なり、会社の破産手続では膨大な資料の提出が必要です。
そして、専門的な内容が書かれた書面を理解した上で申立書などへ適切に記入しなければなりません。
こうした書類集めや書類作成がスムーズに進まず、実際に破産手続きを申し立てるまでに時間を要してしまいます。
さらに、申立書に誤った部分があれば、受理されずに再提出が必要です。
そうなれば、会社の破産手続を開始がどんどん遅れてしまい、精神的なストレスも増えてしまいます。
弁護士に破産手続を依頼すれば、弁護士が窓口となって債権者とのやり取りを行います。
弁護士に依頼した時点で債権者と直接やり取りすることは禁止されるため、借金の督促なども止むことになります。
しかし、経営者が自分で破産手続を申立てる場合は、債権者とのやり取りを引き続き行わなければなりません。
そのため、債権者からのクレームなどの対応に追われ、破産手続の準備に集中できない可能性があります。
破産手続の場合、弁護士に依頼した場合にだけ利用できるような制度があります。
裁判所ごとに制度の運用については異なりますが、即日面接制度や少額管財制度などは弁護士に依頼することで利用できる制度です。
即日面接制度が利用できれば、申立ての日に破産開始手続の決定が行われるため、スムーズに手続きを進められます。
また、少額管財制度では予納金の金額が少額化されます。
通常の破産手続であれば破産管財人の業務遂行のための費用として予納金の準備が必要であり、事業内容によっては中小企業でも高額な予納金を納付しなければならないケースもあります。
しかし、少額管財が運用されれば従来よりも予納金を少額で抑えることができ、手続きも簡易化されるため迅速に手続きを進められます。
こうした制度を個人で破産手続を申立てれば利用できないことはデメリットだといえるでしょう。
会社と経営者個人は別人格として扱われますが、経営者が会社の債務の連帯保証人になってしまっている場合には、経営者も債務整理しなければならない事態に陥ります。
弁護士に依頼している場合であれば、会社の破産手続と同時に経営者個人の債務整理手続きを進められます。
会社と経営者は別人格ですが、多くの裁判所では会社と経営者の破産を同時に申立てることで裁判所へ納める費用が抑えられるような制度が運用されています。
経営者が自分で会社の破産手続と自身の債務整理を同時に行うには、準備がより複雑化することや作業量が増えるため、実現が難しいといえます。
経営者が自分で会社の破産手続をすることは簡単ではありませんが、自分で手続きを進めたいという方もいるでしょう。
そこで、自分で会社の破産手続をする場合に知っておきたい「破産手続の期間」や「破産手続の必要書類」についてご紹介します。
会社の破産手続きに要する期間はケースバイケースですが、3カ月~1年程度が目安です。
経営者が自分で申立てを行った場合、申立てから2週間~3週間ほどで破産手続開始決定が行われます。
そこから弁護士に依頼して少額管財として扱われれば、3カ月後に債権者集会が開催され、早ければこの第一回の債権者集会で破産手続が完了します。
しかし、経営者が自分で破産手続きを行う場合、まずは破産手続の申立の準備に数カ月ほど時間がかかると考えられます。
債権者や債権の金額が増えるほど手続きには時間を要し、1年以上かかってしまうこともあり得ます。
会社の破産手続を裁判所へ申立てるには、あらかじめ提出書類の準備が必要です。
破産申立では、次の書類を作成して裁判所へ提出します。
個人の破産手続とは異なり、法人の破産手続の申立書は書式などが用意されていない裁判所も多いです。
申立書をホームページなどで一般公開している裁判所の書式などを参考にしながら作成する必要があります。
そして、破産手続開始申立書には以下の書類の添付が必要です。
添付書類に関しては、会社の財産状況によって異なります。
弁護士へ依頼していれば、こうした書類集めのアドバイスも受けられますが、経営者が自分で申立てを行う場合は一人で準備しなければならないため注意が必要です。
会社の破産手続を経営者が自分で申立てる場合の流れを解説します。
どのような流れで申立てから免責決定まで進むのか把握しておくと、準備しながら手続を進めやすくなるでしょう。
破産手続をする前に、まずは会社の財政状況を確認して破産の必要性について検討します。
場合によっては金融機関へリスケジュールの相談をするなどすれば破産を回避しながら返済負担を一時的に軽減できるケースもあります。
破産手続をしなければ資金繰りが厳しいという場合には、破産手続開始の申立てに向けて必要な書類収集や書類作成を行います。
申立先は管轄の地方裁判所になるため、書類の作成などでわからないことがあれば裁判所へ問い合わせましょう。
裁判所に申立てが受理されて破産手続開始が決定されれば、裁判所より債権者に通知が送付されます。
破産手続が開始されれば、裁判所によって破産管財人の選定が行われます。
破産管財人と打ち合わせを行い、財産などの調査・管理・処分が破産管財人によって実施されます。
裁判所が指定した日に債権者集会が開かれます。
債権者集会にて倒産の経緯や今後の手続について説明や質疑応答が行われますが、債権者本人が出席するケースは少ないです。
債権者が提出する債権届出をもとに負債を確定し、破産管財人によって法人の財産が換価されて債権者へ配当されます。
債権者への配当が完了すれば、破産手続集結決定が裁判所より下されます。
会社の破産手続を自分で進めることは法的に問題ありませんが、複雑で知識が必要な手続きになります。
そのため、弁護士に依頼して手続を進めることをおすすめします。
しかし、弁護士へ依頼する弁護士費用で悩んでしまうケースもあるでしょう。
弁護士費用を用意できない場合の対処法についてご紹介します。
会社の所有する財産や資産がある場合、処分をして現金化することで弁護士費用を捻出できます。
ただし、破産手続前に行う財産・資産の処分には注意が必要です。
財産・資産隠しのための処分だと判断されてしまうと、破産手続が認められない可能性があります。
売却価格が適正な場合にのみ許可されるため、適正価格で売却したことが分かる資料等を準備しておくようにしましょう。
弁護士費用の金額や支払い方法は、事務所ごとに異なります。
着手金は依頼時に必ず発生しますが、着手金の準備が難しい場合には分割払いで支払いに対応している弁護士事務所を探すとよいでしょう。
弁護士費用が事務所ごとに異なるため費用を抑えるために価格設定の低い事務所に依頼したいと考える方も多いかもしれませんが、費用だけではなく実績や対応のスピード感なども考慮して弁護士選びを行うことをおすすめします。
会社の破産手続は弁護士に依頼しなくても、経営者が自分で裁判所へ申立てることで手続きすることができます。
ただし、申立てには多くの書類準備や書類作成が必要です。
また、手続きを進めていく中で債権者や従業員への対応なども自分で行わければならないため、時間と労力が削られてしまいます。
精神的な負担も大きくなるため、破産手続は専門家である弁護士に任せることをおすすめします。