経営者(社長)と会社(法人)は、別個の法主体なので、社長が自己破産したからといって、当然に会社も破産することにはなりません。
しかし、社長が借金をして会社に運転資金として貸付をしている場合や会社が社長の債務の連帯保証をしている場合など、社長の債務と会社の債務が関連しているような場合には、社長の破産によって、会社が破産に追い込まれる場合もあります。
ここでは、経営者の自己破産と会社の破産の関係性について解説します。
目次
自己破産とは、裁判所を通して行われる破産手続の一種です。
財産や収入が不足し、債務の返済ができなくなった場合に行われます。
自己破産が認められれば、税金や慰謝料などの非免責債権を除いてすべての債務が免責されます。
そのため、自己破産者は返済できないという悩みから解放され、新しい生活をスタートさせることができます。
ただし、自己破産の手続の中で、家や車といった財産は処分・換価されて債権者へ分配されることになります。
財産を処分されたくないという考えから勝手に処分や換価してしまうことや、財産隠しを行えば、自己破産手続を認めてもらえなくなってしまうため注意が必要です。
会社の代表である経営者が何らかの事情で個人の自己破産をすることになった場合、会社も破産に追い込まれるのでしょうか?
経営者個人の自己破産と会社の破産の関係性についてみていきましょう。
法律上において、会社は「法人格」であり、経営者は「個人」になります。
つまり、経営者は会社の代表者という立場になりますが、法律では会社と経営者を別人格として扱います。
そのため、経営者が自己破産したから会社も破産手続を行わなければならないということにはなりません。
経営者が自己破産を行った場合、破産手続で処分される財産は、経営者が所有する預貯金や不動産など個人資産のみです。
もし不動産が会社名義になっていれば、経営者が自己破産をしても不動産は処分対象外になります。
中小企業の場合、経営者が会社の債務の連帯保証人になっているケースは珍しくありません。
経営者が自己破産した場合、経営者個人の債務は全て免責されるため、経営者の負っている連帯保証の債務も免責されます。
そして、経営者と会社は別人格として扱われるため、会社の債務はそのまま残ることになります。
経営者が自己破産をしたからといって、会社も破産手続をしなければならないという法律の規則はありません。
しかし、実際には経営者個人と会社が同時に破産するケースが多いです。
なぜ経営者と会社は同時破産するケースが多いのでしょうか?
経営者の自己破産の原因が個人債務であれば会社の破産が連動するようなことはありません。
しかし、経営者個人が借金したお金を会社に貸付している場合、経営者の自己破産によって回収されることになる資産に経営者が会社に貸し付けていた債権も含まれてしまいます。
そうすると、自己破産手続の中で破産管財人は会社に対して貸付金を請求します。
この請求に対して会社が支払えなければ、会社も破産せざるを得なくなります。
また、役員報酬の未払いがある場合も同様に破産管財人による請求が行われます。
株式会社の代表取締役と会社の関係は、法律上「委任契約」にあります。
そして、代表取締役が自己破産をすれば、会社との委任契約は終了すると民法第653条第2号に規定されています。
つまり、経営者が自己破産をすれば会社との委任契約が終了し、会社には代表者がいない状態になってしまいます。
そうすると、会社が負債を抱えている場合であれば、代表者がいなければ清算手続きを進めることができません。
こうした不都合を避けるために、裁判所より会社も同時に破産手続を進めるよう提言されることがあります。
破産手続には、「同時廃止事件」と「管財事件」の2種類があります。
同時廃止事件は、破産手続において処分すべき個人資産がない場合などに限られる例外的な扱いです。
そのため、多くは破産管財人によって財産の管理・処分が行われる「管財事件」として扱われます。
管財事件になれば、予納金は50~100万円ほど必要です。
管財事件を簡略化する「少額管財事件」の運用する裁判所で手続きを行った場合には、予納金は20万円ほどになります。
そして、経営者と会社の破産手続をまとめて少額管財として扱ってもらえた場合には、予納金をまとめて20万円に抑えられます。
経営者が自己破産しても、会社の代表取締役は継続したいと考えるケースもあるでしょう。
経営者の自己破産によって会社での地位に影響は出てくるのでしょうか?
株式会社の経営者の場合、前項で解説したように、経営者と会社は委任契約関係にあります。
そして、経営者が自己破産をすれば委任契約は終了すると法律で規定されています。
ただし、自己破産手続開始決定のすぐ後に再び代表取締役へ選任されることがあれば、また代表取締役に戻ることは可能です。
また、委任契約関係が終了するのは自己破産手続の場合のみとなり、個人再生や任意整理は対象外になります。
合同会社や合名会社など持分会社の経営者の場合、株式会社とは異なるルールになります。
経営者が自己破産した場合の会社での地位については、定款の定めに沿って決められます。
そのため、会社ごとに自己破産した場合の地位に関するルールは異なりますが、一般的には「役員が自己破産した場合には退任する」と定めていることが多いです。
持分会社の役員の場合、会社への出資金の処理が必要になるため、役員の自己破産で退任が求められるケースが多いといえます。
経営者個人の自己破産は免れないものの、会社の破産の必要はないようなケースでは、生活の立て直しのために代表取締役を継続したいと考える方もいるでしょう。
経営者が自己破産後も代表取締役を継続したい場合にできる対処法についてご紹介します。
株式会社の経営者の場合、債務整理の方法を考え直すという方法と、自己破産後に再度復帰するという2種類の方法があります。
株式会社の場合、経営者と会社との委任契約が終了になってしまうのは自己破産をした場合のみに限ります。
そのため、債務整理方法を「個人再生」や「任意整理」にすれば、代表取締役を継続できます。
個人再生は自己破産とは異なり、財産の処分・換価の必要はなく、借金を大幅に減額できる債務整理方法です。
借金は減額されるものの残るため、再生計画に基づいて返済を続けていきます。
また、任意整理は裁判手続き外の債務整理方法になります。
債権者と直接交渉して弁済の見直しを行う方法で、整理する債務を選ぶことができます。
そのため、連帯保証債務を避けて債務整理することが可能です。
株式会社の経営者の場合、自己破産すれば一旦は退任する必要がありますが、再任は可能です。
再任するためには、株主総会を開いて決議をとります。
上場していない小規模な会社や家族経営の会社の場合であれば、退任後すぐに株主総会を招集して取締役の再任決議を行うことは可能です。
ただし、株主総会を開くには定款の定めに沿って行う必要があります。
また、上場企業の場合は株主が多いため、簡単には株主総会を開くことができません。
株主総会を開いた際には退任や再任のいきさつなどの説明も必要です。
持分会社の場合は、定款の定めに従って再任の手続を進めます。
ただし、持ち分会社では、「出資者=会社の経営者」になります。
そのため、出資した社員に会社の決定権があり、再任するには出資者になるためのお金の工面が必要になってきます。
自己破産後にお金の工面できないようなケースでは、再任が難しいといえます。
経営者が自己破産をすることで会社も破産することになった場合や、代表取締役への再任ができない場合には、今後の生活のためにも再起が必要です。
再起するために、新しい会社を作ることは可能なのでしょうか?
経営者が自己破産後の再起のために知っておくべきことをご紹介します。
自己破産をすれば、家や車など個人資産の多くを失うことになります。
しかし、全ての資産が回収されるだけではなく、「自由財産」と呼ばれる生活のために必要な最低限の財産は手元に残ります。
自由財産に該当するものには、次のようなものが挙げられます。
こうした財産だけではなく、裁判所によっては自由財産の拡張が認められます。
2006年の会社法施工前の旧商法では、破産者は取締役になれないという規定がありました。
しかし、現在の会社法には、「破産者は取締役になれない」「新しい会社を作ってはいけない」という法律はありません。
そのため、自己破産手続中にも新しい会社を作り、取締役へ就任することは可能です。
自己破産して新しい会社を作ることはできますが、融資が受けにくくなるという問題点があります。
個人が自己破産した場合、信用機関の信用情報に自己破産したことが事故情報として5年~10年記録が残ります。
金融機関が融資する際には信用情報を確認することが一般的なため、破産者本人が融資を受けることや、連帯保証人になることが難しいです。
自己破産後に会社を新しく作るためには、それまでに十分な自己資金を準備しておく必要があるといえます。
もしくは、破産者以外の人に代表取締役を引き受けてもらうという手段や、多額の自己資金を必要としない事業を始めるという手段もあります。
自己破産をすれば金融機関から融資を受けることが難しく、破産者が新しい会社を作って再起することのハードルが高くなります。
しかし、支援制度を利用することで、融資を受けることが可能になります。
廃業歴のある経営者の再挑戦をサポートするという目的の支援制度で、日本政策金融公庫が運営しています。
この支援資金制度を利用すれば、個人事業主や小規模企業で最大7200万円(うち運転資金4800万円)、中小規模企業で最大7億2000万円(うち運転資金2億5000万円)まで融資を受けられます。
ただし、この融資を受けるには、廃業の理由や肺行事の負債の整理状態などの条件を満たす必要があります。
新創業融資制度も日本政策金融公庫が運営する制度で、こちらは国民生活事業のひとつになっています。
新しく事業を開始する場合に、最大3000万円までの融資を受けられます。
この制度を利用するための要件は複数ありますが、創業時に創業資金総額の10分の1以上の資金が必要になります。
こうした要件を満たして審査を通過すれば、自己破産をしていても融資を受けることが可能です。
経営者が自己破産をしても、必ずしも会社も破産することになるとは限りません。
また、自己破産をしても代表取締役を継続することや再任する方法もあるため、自己破産後にどうすべきなのか検討する必要があります。
万が一、自己破産をして会社が破産するようなことになっても、経営者が再起するという道もあります。
まずは弁護士に相談し、ご自身や会社の状況に応じた債務整理方法を検討することが大切です。