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破産手続等によって倒産する会社の借金は、会社資産で清算するだけでは済まず、保証人も支払いに応じなくてはなりません。
結果的に経営者個人やその親族の生活を圧迫し、会社と同時期に個人破産を検討しなくてはならない場合があります。
会社倒産時に残っている負債は、単純に免除・減額が認められるわけではなく、債権者への支払いによって極力減らす対応がとられます。
この時、会社が自己の資産を処分しなくてはならないのはもちろん、保証人や抵当権を設定した不動産等からも回収が図られます。
まずは清算型・再建型と2パターンある倒産手続を紹介し、手続を通して行われる債権回収、つまり借金の支払いがどのように行われるのか解説します。
破産と特別清算は、廃業を前提に進める「清算型倒産」にあたります。
これらの手続では、下記3つの方法での債権回収が図られます。
破産手続開始決定や株主総会の特別決議は、会社解散、つまり法人消滅の事由とされています(会社法第471条)。
法人がなくなれば、借金返済等といった会社として果たすべき義務も一緒に消滅します。
会社と共に返済義務がなくなるとしても、債権が消えるわけではありません。
会社の破産を知った債権者は、優先的に弁済を受ける権利(=別除権)があればこれを行使し、リース物件引き揚げ・庫内在庫の処分等を行います。
物的担保だけでなく人的担保、つまり保証人からの回収も図られます。
清算型倒産の手続を通して、会社の全資産の換価・処分を通じた回収も図られます。
破産手続では管財人、特別清算手続では清算人(代表者が一般的)がそれぞれ主導し、売掛金回収や設備売却を通じて債権者に分配します。
民事再生と会社更生は、最終的に会社を解散させるか否かに関わらず、事業継続を目的として進められる「再建型倒産」です。
手続の趣旨に添い、債権回収は下記4点を使って図られます。
再建型倒産であれば、事業継続に不可欠とは言えない担保の目的物に限り、回収に充てられます。
会社の資産も同様に、事業継続に不可欠と言えないものは売却する等して、積極的に返済に充てなくてはなりません。
また、手続中に早期の事業譲渡を実行し、その対価で弁済を目指す場合もあります。
再建型倒産の手続では、採算事業だけ切り離す形で新設会社等に逃がし、旧会社には不採算事業のみ残した状態で清算型に移行することがあります(第二会社方式)。
この場合の旧会社では、担保権行使と全資産の換価及び配当で債権回収が図られ、残った返済義務は法人と共に消滅します。
倒産する会社の主だった関係者として、役員・融資契約上の保証人・代表者の親族の3者が挙げられます。
役員(代表者含む)個人とその親族については、ただそれだけだと債務弁済に応じられなかった責任を問われることはありません。
他方で、融資契約上の保証人は債務全額につき責任を負うのが一般的です。
経営判断の誤りで債務超過・不履行等の状況に陥ったとしても、倒産企業の負債を役員や代表者個人が負うべき理由になるとは言えません。
株式会社や合同会社は有限責任制であり、個人の責任は各人の出資額が限度です。また、融資契約を結ぶ時は、法人と個人で別人格として扱われます。
これら法律及び契約の仕組み上、会社の債務を弁済できなかったとしても、株主それぞれが自分の出資分を諦めるだけで済むのが原則です。
ただし、役員に任務懈怠があり、そのために債権者が損害を被った場合には、借金の返済ではなく、損害賠償という形で請求される場合があります。
会社の融資契約に存在する保証人(民法で規定される単純保証人)は、倒産手続や強制執行・差押えで足りない時、残った負債について返済義務を負います。
代表者自ら融資契約の保証人となっているケースでは、保証債務の履行により、結果的に個人として会社の責任を取ることになります。
結果、法人と個人で同時期に債務整理を進めなくてはなりません。
融資契約では保証人に「連帯して債務を負う」との条件が付されていることが多く、この場合、主債務者である会社と同等の義務を負います。
連帯保証人に課される義務は下記のように重く、一般的には、会社と同時期に自己破産や民事再生を進めなくてはなりません。
役員の親族は、融資契約や事業資金の供与等に関わらない限り、会社の債務について責任を負わされることはありません。
不安があるとすれば、保証人として個人破産することで同居家族の生活状況に障りが出る……等と言った間接的な影響です。
中小企業の倒産(破産手続等)を進める時に最も心配なのは、関係者個人が高額な事業性債務の返済を負わされる可能性です。
当てはまるケースとして、以下の5つが挙げられます。
会社倒産で個人に負債が生じる第1のケースは、融資契約を締結する際に保証人をつけている場合です。
もし親族や保証を頼んでいれば、これらの当事者が支払わなくてはなりません。
会社倒産で個人に負債が生じる第2のケースは、役員個人や親族名義の不動産を担保にして事業性融資を受けた場合です。
この場合は抵当権が実行され、所有者による追加の返済までは生じないにせよ、少なくとも権利設定された土地建物は失うことになります。
会社倒産で個人に負債が生じる第3のケースは、会社から役員へ貸し付けたお金(=役員貸付金)がある時です。
破産手続や会社更生だと、個人資産の中にある役員貸付金も管財人が管理し、個人資産から回収した後に配当に回されます。
会社倒産で個人に負債が生じる第4のケースは、役員の任務懈怠で損害賠償責任が生じた時(会社法第423条各項)です。
破産手続や会社更生では、会社が役員に対して有する損賠賠償請求権も破産財団に属し、管財人が当該役員個人に請求します。
会社倒産で個人に負債が生じる第5のケースは、無限責任社員がいる場合です。
合名会社は社員全員、合資会社は社員の一部が該当し、該当する社員は連帯して債務を弁済する責任を負います(会社法第580条)。
会社の倒産の可能性が浮上した時は、いわゆる「資産隠し」や親族等にだけ優先的に返済する行為がないよう注意しましょう。
管財人が選任される手続(民事再生の一部・破産・会社更生)では法律違反にあたり、否認権行使によって移動した資産の回収が図られます。
否認権行使の対象になる違反行為の類型は、下記2つに整理できます。
※以下の解説は破産法第160条から第176条に沿いますが、会社更生法(第86条~第98条)及び民事再生法(第127条~第141条)にも同様の規定があります。
倒産すると知りながら会社の資産を移動させると、詐害行為として否認されます。
代表者の個人名義に変更したり、事情を知る親族や別法人に無償で譲渡したりする行為です。
会社の資産を相場より著しく安い値で売ったり、在庫処分したりするのは、管財人による換価・配当に充てられるべき財産を減少させる行為にあたります。
やはり詐害行為とみなされ、名義変更や贈与(=無償で資産を譲渡する場合)と同じく否認権行使の対象となります。
複数いる債権者の一部のみ返済に応じる行為は「偏頗弁済」と言い、否認権行使の対象になります。
典型的なのは、他に銀行から借り入れているにも関わらず、関係悪化を恐れて親族や知人に対してのみ返済を続ける行為です。
会社の破産では、経営者保証がある等の理由で個人破産も同時に行うケースが多々あります。
その予定がある場合、個人資産についても資産隠しや偏頗弁済がないように注意しなくてはなりません。
否認権行使の理由になるだけでなく、法律上は債務の免除が認められないとする免責不許可事由(破産法第252条1項各号)に該当してしまうためです。
ありがちなものとしては「社長の個人宅を配偶者名義に変更する」といった例が挙げられます。
会社倒産では、借金の支払義務を転嫁しないとしても、取引先・従業員・経営者個人とその家族への影響が懸念されます。
破産手続等が視野に入った段階では、次の2点を覚えておくと備えになるでしょう。
第1に注意すべきなのは、経営難の事実を不用意に口外する行為です。
事情を知った人物が経営者以上に慌て、想定外の行動に出る可能性があるからです。
考えられるのは、設備や高額商品を勝手に持ち出される、賃金等の給付につき約束の期日が来ていないにも関わらず履行を要求される……といったトラブルです。
万一の時は、経営者に非がないにも関わらず、今後の手続で「債権者を不公平に扱った」等として支障をきたすかもしれません。
話そうとする相手が経営そのものに関与しない従業員等であっても、債権者のひとりである点や事実を広められる可能性を考慮し、我慢しましょう。
会社の債務は原則として個人と切り離されることから、倒産時ただちに経営者個人やその家族が督促されることはありません。ただし、保証人に対する請求及び督促は別です。
もっとも、会社とは別に保証人として弁護士に依頼すれば、受任通知の送付をもって郵便物や電話が来ることはなくなります。
倒産する会社の負債は、そのまま消えてなくなるわけではありません。
当該法人の資産を処分しつつ、保証人(担保を供与した人や連帯保証をした人)がいるなら、その人も支払いに応じなくてはなりません。
融資契約の内容によりますが、経営者や親族が生活拠点を失ったり、会社と同時期に債務整理する必要に迫られたりする可能性があるのです。
何はともあれ、ひとまず経営者が心がけたいのは以下の対応です。
早めに信頼できる弁護士と二人三脚の体制に入れば、手続の混乱や関係者とのトラブルを不用意に生じさせる心配はなくなります。
本当に苦しくなる前に、まずは相談してみましょう。