会社の破産手続を行う際には、裁判所によって破産管財人が選任されます。
破産手続は弁護士に依頼することが一般的ですが、依頼した弁護士以外にも破産管財人として弁護士が登場することに疑問や不安を持つ方もいるでしょう。
破産管財人が選任されれば、会社の財産の管理や処分、債権者への弁済なども全て破産管財人が行うことになります。
法人破産の手続を適切かつスムーズに進めるためにも、破産管財人の役割や対応方法について知っておきましょう。
破産管財人とは、破産法第2条第12項に定められている「破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者」を指します。
具体的に破産管財人とはどのような役割を持ち、どのような人が選任されるのか紹介していきます。
法人の破産手続では、会社の財産を換価処分して金銭に換え、各債権者に配当を行います。
この破産者の財産(破産財団)を調査し、換価処分まで価値が減少しないように管理し、各債権者へ弁済・配当する行為を全て裁判所が行うことは困難です。
そのため、破産財団に属する財産の調査から配当までを外部に任せる必要があります。
この外注先になるのが「破産管財人」です。
破産管財人は破産の免責可否の判断なども裁判所に意見を述べる役割も担い、破産手続を主導的に進めていく存在となります。
破産管財人は、裁判所によって選任されます。
破産法に対応して破産手続の詳細事項を定めている破産規則では、「破産管財人の選任は、その職務を行うのに適切なものでなければならない」ことが定められています。(破産規則23条)
そこで、選任されるには、破産法の知識を持つ弁護士になります。
破産管財人の選任基準に資格の必要性などは規定されていませんが、破産手続には破産への知識と公平性が求められます。
そのため、実務上では弁護士の中から選任されています。
選任される弁護士は、破産裁判所の管轄地域内の法律事務所に所属する弁護士になることが多いです。
破産管財人は破産財団の財産の調査や管理・換価、債権者への配当を行うため、公平で中立な立場にいなければなりません。
債権者に少しでも多く配当できるように調査や換価、配当を行います。
その一方で、破産者が破産手続後に経済的更生ができるように配慮もします。
そのため、破産管財人は破産者にとっても各債権者にとっても代理人的な立場になるといえるでしょう。
こうした公平・中立な立場を守るためにも、破産申立代理人が破産管財人になることはできません。
法人破産の手続きで全てのケースにおいて破産管財人が選任されるというわけではありません。
破産管財人が選任されないケースもあります。
破産管財人が選ばれるケースと選ばれないケースについてみていきましょう。
破産管財人が選ばれるのは、破産手続が「管財事件」になった場合です。
管財事件になるのは、債権者への配当が見込める財産があるケースや、免責不許可事由の存在が疑われるようなケースになります。
管財事件には、「通常管財事件」と「少額管財事件」の2種類があります。
通常管財事件とは、破産法の定め通りに手続きが行われる管財事件です。
通常管財事件として扱われるケースは、破産管財人の業務量が多いケース、複雑で困難な手続きのケースなどが挙げられます。
例えば、財産状況が複雑なケースや、財産隠しが疑われるケースなどでは通常管財事件として扱われる可能性があります。
また、弁護士に依頼せずに破産手続を申立てた場合も通常管財事件として扱われます。
法律上では通常管財事件として管財事件を進めることが原則とされていますが、少額管財事件として扱われることも多いです。
少額管財事件は、裁判所の運用によって手続きが簡略化される管財事件になります。
少額管財事件になるケースとしては、破産管財人の業務が簡易的で済むようなケースや、定期的な財産処分・配当によって手続を終えられる見込みがあるケースなどが挙げられます。
少額管財事件として扱われれば、短期間で破産手続を終えることができ、費用も抑えられます。
ただし、少額管財事件は全ての裁判所で行われているわけではありません。
破産管財人の役割は、破産財団に属する財産の調査や管理等が中心になります。
つまり、破産財団を形成するだけの財産が無い場合には、破産管財人が必要なくなります。
こうしたケースでは、破産管財人は選任されずに破産手続開始と同時に破産手続が廃止によって終始することになる「同時廃止」という破産手続が選ばれます。(破産法216条第1項)
ただし、法人破産においてはまず同時廃止になることはないと考えておいてよいでしょう。
破産管財人が選任されれば、裁判所へ「予納金」を支払うことになります。
予納金は、破産管財人が手続きにかかる費用や、破産管財人への報酬です。
報酬がなければ破産管財人を引き受ける人がいない状態になってしまうため、報酬が発生します。
予納金の相場や、予納金が支払えない場合の対処法について解説します。
予納金は裁判所ごとに異なりますが、一般的に通常管財事件で50万円以上、少額管財事件で20万円ほどとされています。
少額管財事件が扱われていない裁判所で破産管財人が選任されれば、通常管財事件の扱いになるため予納金は50万円以上になります。
予納金は、負債額に応じて金額が大きくなる仕組みです。
予納金は原則一括払いで支払う必要があります。
東京地方裁判所では予納金の分割が認められていますが、それ以外では減額や分割に対応していないことが一般的です。
法人破産の手続きにかかる費用でもっとも大きな金額になると予想されるものが申立代理人に支払う弁護士報酬と予納金になりますが、その費用が準備できないというケースもあるでしょう。
こうした場合、まずは代理人弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士ならば法人の財産などから費用捻出の方法を検討してくれます。
弁護士に相談せずに財産を換価して費用を捻出しようとすれば、破産手続において問題になってしまう可能性があります。
そのため、資金調達の方法は自己判断で行わず、専門家である弁護士に相談しながら行ってください。
破産管財人は、破産手続においてさまざまな業務を行います。
破産管財人が行う具体的な業務内容を、時系列でみていきましょう。
破産手続の最終目的は、各債権者へ公平に破産財団の財産を配当することです。
そのためには、どの債権者にどれくらいの負債があるのか明確にする必要があります。
破産管財人は、破産者が提出した申立書や添付書類、債権者が裁判所へ回答した書類などを精査していきます。
必要に応じ、さらなる書類の提出が必要なケースもあるでしょう。
この調査により、特定の債権者にだけ弁済をする偏頗弁済が行われていないかどうか、優先的に返済すべき債権者がいるのかどうか等を確認します。
破産手続では、破産者の財産を正確に把握する必要があります。
破産者が財産隠しをしていることや、破産手続開始前に流出していることなども考えられます。
もし破産手続開始前に財産が流出したのであれば、破産管財人は否認権の行使によって財産を取り戻す措置を講じなければなりません。
また、財産によっては担保権が設定されているものもあるでしょう。
こうした対応のためにも、破産管財人は破産者の財産を綿密に調査します。
調査方法は決められていませんが、書類だけではなく現地調査などを行なうケースもあります。
破産管財人には、破産財団の財産を管理するという業務もあります。
裁判所から破産手続開始決定がなされると、破産財団の財産の管理処分権は破産管財人に専属するものとなります。
そのため、会社の経営陣であっても会社の財産は処分できなくなります。
破産管財人は財産を1円でも多く債権者へ配当できるように収集しつつ、財産が減少しないように管理します。
破産管財人が破産財団を管理することで、財産隠しや扁平弁済を予防できるという目的もあります。
破産管理人が管理する破産財団の財産を適正価格で換価処分することで、債権者への配当するための資産を形成します。
換価処分の方法に決まりはありませんが、第三者に売却して換価処分することが一般的です。
換価処分の対象は什器や株などの物だけではなく、会社の知的財産なども換価の対象になります。
破産手続が管財事件になった場合、債権者に対して破産手続の進行について情報を提供するための「債権者集会」が開かれます。
破産者は債権者集会にて破産に関する説明義務を負っているため、代表者が出席をします。
債権者は債権者集会にて意見を述べることができますが、実際には債権者集会に債権者が出席することは少ないです。
破産者と破産管財人、裁判官が参加して債権者集会が行われ、短時間で終了することが大半だといえます。
破産財団の財産を換価処分して得た金銭を債権者へ弁済・配当する業務も破産管財人が担っています。
この弁済・配当に向けて、破産管財人は配当表を作成します。
配当表には債権者の名前や債権額だけではなく、配当額も記載されており、裁判所へ提出します。
そして、裁判所が配当表を認めて配当を許可すれば、各債権者へ配当が行われます。
破産管財人は破産手続において要となる人物です。
そのため、破産管財人が選任された後の対応に不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
破産管財人に対して破産者が取るべき対応についてご紹介します。
破産管財人は財産や免責に関する調査を行い、債権者への配当や裁判所への報告等を行うことが職務です。
そのため、破産者にはさまざまな説明や書類提出が求められます。
こうした説明や書類提出を求められた場合には、破産管財人の指示に従って調査協力をしっかり行いましょう。
破産管財人が選任されれば、破産者との面談が行われます。
この面談において破産の経緯や事情、財産や経営状況などについて説明をしますが、虚偽や隠ぺいするような行為をしてはいけません。
破産管財人は裁判所の代わりに調査等を行っているため、最終的に裁判所へ報告を行います。
虚偽や隠ぺいがあれば裁判所へ報告されてしまうため、正直に誠実な対応をすることが大切です。
破産管財人は、中立の立場で破産手続を公正に進める役割を担う人物です。
破産管財人が行った調査内容は裁判所へ報告され、裁判官は破産管財人に免責許可への意見を求めます。
そのため、破産管財人が選任された場合は、指示に従って誠実に対応すべきです。
破産管財人や破産手続において不安なことや疑問がある場合は、弁護士に相談して対応するとよいでしょう。