会社の資金繰りが厳しくなり、負債を抱えれば破産手続きを検討することになります。
法人破産の手続きは裁判所を介して行う手続きになり、手続き中にはさまざまな制限や義務が設けられます。
こうした制限や義務を知らずに自己判断で行動すれば、手続きがスムーズに進まなくなるだけではなく、破産が認められないリスクがあります。
そこで、今回は会社(法人)破産の手続中の注意点や制限・義務について解説します。
これから会社の破産手続を行う場合や、破産手続を検討している場合は参考にしてください。
そもそも会社(法人)破産の手続きはどのような手続きであり、手続きをすることでどのようになるのでしょうか。
まずは、会社(法人)破産の手続きについて解説します。
会社を倒産させる際に行う手続きには、「清算型手続き」と「再建型手続き」の2種類があります。
再建型手続きは民事再生や会社更生と呼ばれる手続きがあり、事業の継続を目指して債務の圧縮などを行なう方法です。
一方で、会社破産は清算型手続きに該当し、会社の財産を処分して会社を消滅させる手続きになります。
裁判所へ破産申立てを行い、要件を満たしていれば破産手続が開始され、必要な手続きが進められていきます。
会社(法人)破産手続をすれば、法人格は消滅します。つまり、会社や事業全てが無くなります。
法人が所有していた資産は全て換価されて債権者へ配当されるため、法人の資産も失われます。
ただし、法人が破産したからといって代表者の資産に影響が出るとは限りません。
会社の破産手続はあくまでも法人格に対するものであり、代表者個人とは別のものとして扱われます。
しかし、代表者個人が会社の債権の保証人になっている場合、会社破産によって代表者が返済義務を背負うことになります。
そのため、法人の破産と代表者の破産が同時に行われるケースも多いです。
会社(法人)破産の手続きが開始されれば、会社の財産や事業に関する制限が課せられます。
破産手続中に破産者へ課せられる制限は、以下の通りです。
破産手続きが開始すれば、会社が所有する財産を自由に使用することや処分すること、管理することができなくなります。
なぜならば、破産手続きの開始によって破産者の持つ財産管理処分権が失われるからです。
そして、会社の財産の管理・使用・処分に関する権限は破産管財人に委ねられることが法律で定められています(破産法第85条1項)。
破産管財人は破産者の所有する財産を適切な方法で換価処分し、債権者へ公平に分配します。
破産手続き開始決定を受けた後は、原則的に会社の事業や営業活動を停止しなければなりません。
破産手続が開始されれば事業を続けるための権限が制限されます。
破産法第35条には破産手続が終了するまで法人格は存続するものとみなすとされていますが、破産手続の開始決定後から会社名義の店舗や工場、パソコン、自動車など全てが資産として管理・処分されることになるので事業をそのまま続けることは原則としてできません。
破産法第82条において、破産管財人は破産者宛の郵便物の中身を確認することが認められています。
法人宛の郵便物は全て破産管財人の元へ送られるようになるため、破産者が郵便物を自分で受け取ることはできません。
これは、財産隠しなど免責不許可事由がないかどうかを調査するための制限です。
破産管財人の元へ送られた郵便物は開封して中身を確認し、まとめて破産者へ返却されます。
ただし、あくまでも法人宛の郵便物のみが対象になり、代表者が破産手続を行っていない限り、代表者宛の郵便物は転送されません。
破産手続が開始されれば、会社の代表者は居住が制限されます。
そのため、手続き中は裁判所の許可を得なければ、代表者は宿泊を伴う旅行や引っ越しなどができなくなります(破産法第37条)。
なぜならば、会社代表者には説明義務があるからです。
裁判所や破産管財人が会社の財産などについて説明を求めてきた場合、いつでも説明できる体制でいなければなりません。
会社(法人)破産の手続きを進めるにあたり、破産者である会社代表者や役員にはいくつかの義務が課せられることになります。
法的に定められた義務になるため、違反すれば刑罰が課せられるような可能性もあります。
前項でも解説したように、会社代表や役員などは破産管財人や裁判所に対して必要な説明をする義務が課せられます(破産法第40条)。
会社(法人)破産手続では破産理由や財産の状況の説明が必要になる場面があるため、説明を求められた時には回答しなければなりません。
合理的な理由なく説明を拒絶した場合には、説明及び検査の拒絶等の罪として3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、あるいは懲役と罰金の両方が科せられる恐れがあります(破産法第268条)。
会社破産手続が開始されれば、破産者は会社の所有する財産の内容を記載した書面を遅滞することなく裁判所へ提出しなければならないことが法律で定められています(破産法第41条)。
重要財産開示義務の対象になるものは、不動産や現金、有価証券、預貯金など所有する財産全てです。
通常は破産の申立にあたって資産目録や財産目録を提出するため、依頼した弁護士に全てを報告すれば問題ありません。
しかし、財産の開示を拒否した場合には、重要財産開示拒絶の罪として3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいは懲役と罰金の両方が科せられます(破産法第269条)。
代表者が個人破産を申し立てている場合、破産者は、裁判所の行う免責調査に協力する義務があります(破産法第250条2項)。
裁判所や破産管財人から求められた質問への回答拒否や虚偽の回答、資料提出の拒否、面談に出席しないなど調査に協力しない行為は、調査協力義務違反です。
こうした行為は説明及び検査の拒絶等の罪(破産法第268条)や、破産管財人等に対する職務妨害の罪(破産法第272条)に問われる恐れがあります。
その場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、あるいは懲役と罰金の両方が科せられます。
また、破産者は債権調査の期日に出頭し、意見陳述する義務もあります(破産法第121条)。
これまで解説してきたように会社(法人)破産の手続き中には一定の制限や義務が生じ、制限や義務を無視した行為は違法行為に該当します。
会社破産の手続きを問題なく進めるためには、手続き中の注意点についても知っておく必要があるでしょう。
会社破産の手続き中は、以下の点に注意しましょう。
破産するのであれば、その前に会社の財産を少しでも売却して処分しようと考える方もいるかもしれません。
しかし、会社の財産の売却は財産減少行為として破産管財人に否認される可能性があります。
例えば、破産を知っている取引先に会社の財産を適正価格よりも安い価格で売却すれば、否認の対象になります。
また、適正価格で売却しても、破産前や後に少しでも財産を現金化しておこうと財産を適正価格で売却しても、一定の要件を満たしている場合は否認の対象になります(破産法第161条)。
破産前や後に会社の財産を無償で譲渡することは、「無償行為」として否認の対象になります。
どうせ処分されるのであれば使ってもらえる人に譲渡しようと無償で財産を譲渡した場合も否認対象になり、譲渡相手に返還してもらうことになります。
また、財産の譲渡の目的が財産を仮装する行為だと判断された場合には、詐欺破産罪として10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科せられます(破産法第265条)。
「従業員は会社の倒産を知らず、テレビなどのニュースで知った」「いきなり取引先が倒産して困った」などという話をニュースで見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
こうした話から分かるように、会社の破産手続は裁判所の手続開始決定後に公になる場合や破産申立前であっても、事業を停止する時に明らかになることが多いです。
なぜならば、もし破産する事実をあらかじめ知った従業員や取引先がいれば、強引な取立や会社財産の横領などの混乱が起こる恐れがあるからです。
また、破産手続では全ての債権者が公平に扱われなければならないため、公平性を保つためにも破産開始手続きが開始されてから倒産を発表するケースが多いです。
破産についてどのタイミングで発表すべきか弁護士と慎重に判断すべきでしょう。
会社の破産にあたり、これまでお世話になった取引先への返済を優先したいと考える方もいるかもしれません。
しかし、債権者に優劣をつけて一部の債権者だけに弁済するような行為は、かえって債権者に迷惑をかけます。
なぜならば、破産状態にあることを知っている債権者に対して弁済をすることは破産管財人による否認対象の行為になるからです(破産法第162条)。
そうなると、債権者は受けた弁済を返還しなければならず、拒否した場合には否認権の裁判になる可能性があります。
破産手続では会社の財産が換価・処分されてしまいますが、その前に会社の財産を代表者などの個人名義に変更してはいけません。
会社の財産の名義を変えてしまうことも財産減少行為として破産管財人に否認されてしまいます。
また、場合によっては詐欺破産罪として刑事罰が科される恐れもあるので注意が必要です。
会社破産をすれば、最終的に借金の返済義務が無くなります。
どうせ破産手続をするからといって返済する意思のない借り入れを破産手続の前にするような行為は、詐欺罪に該当する可能性があります。
会社だけではなく代表者も詐欺罪として刑事罰が科せられる可能性があります。
会社の破産手続をするには、費用が必要です。
そのため、現金や預金などの資産を使い果たしてはいけません。
もし破産手続をするための費用が全くなければ、事業を廃止して会社を放置することになります。
破産申立てをせずに放置をすれば債権者や従業員、取引先など多くの人に迷惑がかかるため、放置せずに手続きをすべきです。
破産手続きの費用は、代理人弁護士の報酬や破産管財人への報酬です。
裁判所に収める費用は印紙代や官報公告予納金と合わせて15,000円前後で、破産管財人への報酬になる予納金は裁判所や負債額によって異なりますが、数十万円~数百万円かかります。
会社(法人)破産の手続きには義務や制限などがあり、注意すべき点も多いです。
手続きをスムーズに進めるためのポイントを紹介します。
破産手続では、裁判所や破産管財人より追加で書類提出を求められることや、資産や債務について質問されることがあります。
破産管財人や裁判所の要請には迅速に対応し、協力することが大切です。
書類提出や面談の拒否や、虚偽の発言などがあれば、手続きがスムーズに進みません。
場合によっては破産が認められず、事態が悪化することもあります。
会社破産の手続きを円滑に進めるためにも、裁判所や破産管財人には協力的な姿勢で対応しましょう。
会社破産を申し立てする場合、早期に弁護士へ相談することが大切です。
弁護士に相談すれば、破産における適切な対応策を提案してもらうことができ、法的リスクも回避できます。
会社破産では準備すべき書類が多く、代表者個人で進めることは大変ですが、弁護士に依頼すれば書類作成や裁判所とのやり取りも全て任せることが可能です。
また、破産するとなると従業員や取引先など関係者への対応についても不安な部分が多いかもしれませんが、弁護士がサポートしてくれるため、精神的な負担も軽減されるでしょう。
会社(法人)破産の手続きにはさまざまな制限や義務があり、注意すべき点も非常に多いです。
弁護士に相談すれば、どのように対応すべきかアドバイスをしてもらうことができ、破産手続も円滑に進めやすくなります。
ただし、弁護士といっても得意分野や取り扱い分野がそれぞれ異なります。
会社破産をする場合には、会社破産に精通した弁護士に相談しましょう。